私たちは今後の自社の事業展開に向けて先駆者の知恵を借りるため、様々な福祉事業所への取材を行うことになった。その最初の取材先が「株式会社ARU」である。 ARUは現在3つのB型事業所と他にも訪問看護ステーション、相談支援事業所など実に多岐にわたる経営を実施している。今回訪れたのは、大分市長浜町のビルに居を構えるB型事業所「クローバー」。代表の薄田夕侑(すすきだゆう)氏に時間を割いてもらい、様々な話を伺った。利用者さんがいて、それに合わせて仕事を作った まず、真っ先に質問したのはB型事業所の主役である利用者についてだ。というのも、事前にARUの利用者の業務を調べたところ、その中にyoutubeの動画編集やインスタグラムの運用など、一般的な(典型的な)B型から想起される仕事とはイメージのかけ離れたものを感じたからである。 そのようなことを可能にするには、事前にしっかりとした訓練や教育を行ったのではないか、そんな筆者の素朴な疑問に薄田氏は答える。「それは発想が逆ですよ。まずyoutubeやインスタグラムをやりたいという利用者さんがいて、それに合わせて仕事を作ったんです」 この答えには非常に驚かされた。なぜなら、私たち福祉の支援者はまず利用者が出来そうな仕事やサービスを用意して、そこに本人を当てはめてしまうということが往々にしてあるからだ。しかし、薄田氏の発想にはあくまで利用者が先にある。原則として主体は当事者である彼ら・彼女であって、支援者はそこに合わせた事業を行っていく必要があるということだ。もちろん、既存の仕事をした方が安心するという利用者には弁当の総菜作りやチラシ折りなど、その人にとって無理のない選択肢がいくつも用意されている。 そのような基本理念があってか、ARU全体の利用者の離脱率は極端に低い。考えてみれば当然だ。自分のやりたいことを尊重して仕事を創出してくれる企業に勤め続けたいと思うのは健常者も何ら変わりがないと言える。就労移行の難しさを緩和する仕組みがARUでは実施されている次に、B型で働く力をつけて次のステップに進みたいという利用者への支援方法もユニークだ。こうした要望に対して通常は他法人のA型への移行もしくは一般就労を目指すところだが、先述したようにARUは3つのB型事業所を運営している。ここが興味深いのだが、各事業所はそれぞれ仕事の難易度で区分けされており、クローバー→エース→キングと順を追って、ステップアップを望む利用者は段階的に負荷を上げていくことができる。これは工賃についても同様で、キングに近づくほど上がる仕組みになっており、インセンティブによる就労意欲の向上も図られているのだ。B型の仕事が難なくこなせるようになっても、突然他のA型や一般企業に面接に行くのは多くの利用者にとって抵抗があるだろう。そんな就労移行の難しさを緩和する仕組みがARUでは実施されているわけだ。週休3日であれば土日の他にも平日に自由に動ける日がある次に訊いたのは支援者について。現在、B型だけでも支援員35名ほどが常勤している。ここで代表の薄田氏が最重視しているのが、様々な意味における「働きやすさ」だ。まず、ARUでは週休3日制を導入しており、これは主に育児をする女性職員を想定している。日本ではいまだに女性は家にいるものという固定観念がある一方で、実際には夫婦共働きしなければ生計を維持できないという矛盾が生じている。そこに育児が加わると更に生活の窮屈さは増していくだろう。しかし、週休3日であれば土日の他にも平日に自由に動ける日があることで、子どもの学校の用事や行政の手続きなどをわざわざ有休をとることなく済ませられる。もちろん、育児と仕事の板挟みによる普段からの疲労を回復する機会にもなるはずだ。筆者も国家資格を持って福祉の現場で働いたことがあるが、この業界は男女比でいうと圧倒的に女性が多い。言い換えるなら、女性の働きやすさを軽視するような経営をしていては、需要が増え続けるこれからの福祉業界で生き残っていくのは難しいのではないだろうか。また、ARUでは代表自らが総勢50名に及ぶ社員一人一人に、毎月1回10分程度の面談を行っている。薄田氏いわく「最後の方は知恵熱が出るほど」と苦笑するその面談の場では、「何か仕事で困っていることはないか?」など、いかにも管理職らしい圧迫感のある質問をすることはない。むしろ薄田氏自身が話好きということもあって、ほとんどが雑談に終始するという。だが、人が本当の悩みや相談事を打ち明けられるのは、普段から他愛のない雑談を通じて関係性を築いた相手がいてこそだろう。そうした上下関係を打ち払ったボトムアップ式の信頼構築で職員のメンタルケアを行っているのだ。最後に、薄田氏が最終的に目指している目標を尋ねてみた。氏は言いよどむことなくほとんど即答する。「私が目指しているのは『アップデート型福祉』です。破天荒な発想でどんどん新しいことをやっていきたい」実は筆者自身が精神障害者であり、A型を始めとする様々な福祉サービスを利用した経験があるのだが、そこで感じたのは薄田氏の理想とは真逆のことだった。障害の重さで当事者を区分し、既存のサービスに当てはめてそれで安心してしまう支援者。そして福祉とはこうあるべきだ、こうなければならないと始めから決めてかかり、新しいモノ・コトを出来るだけ遠ざけようとする同調圧力など、私たちの社会はまだまだ旧弊な価値観に囚われていると言える。しかし、薄田氏はそんな福祉の業界にアイデアで革命を起こしたいと、キラキラした目で筆者に語った。すでに具体的な次なる構想も進んでいて、詳しくは書かないが夜型の当事者に向けた新しい事業所を計画しているとのこと。これから株式会社ARUがどのような方向に進み福祉業界に新たな風を吹かすのか、筆者は期待の念を禁じ得ない。会社名株式会社ARUHPhttp://aru-o.com/住所大分県 大分市長浜町2丁目2-4最寄り駅大分駅道順JR大分駅から徒歩10分電話番号097-576-9599営業時間10:00 ~ 15:00サービス障害者就労継続支援B型事業所就労作業内容・メダカ飼育・アクセサリー制作・Youtube動画編集・インスタグラム運用(DM送付)・文字起こし・チラシ折り・弁当の惣菜作り・カフェ接客・清掃、メンテナンス業務